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2023.07.31

国の認知症対策が進んでるらしい

認知症基本法が成立しました

2023年6月14日に参議院で可決して認知症基本法が成立しました。認知症はいわゆる「もの忘れ」ではなく脳細胞が死んだり障害を起こすことで生活に支障をきたす病気ですので高齢になった人がみんな発症するわけではありません。内閣府の【高齢社会白書】によると2012年に462万人だった患者数は2020年に602万人に。さらに2025年には675万人になると予想されており、65歳以上の高齢者のおよそ5人に一人が認知症患者になると見込まれています。一口に「認知症」といっても加齢による物忘れと見分けがつかいような軽い状態から、家族と他人の見分けがつかないといったレベルまで病状が進行してしまった方まで、その症状は人それぞれです。

ごく一部の認知症(血管性認知症)を除いて基本的には根本治療に使えるお薬はまだ開発中ですので「風邪」と同じように治療は対症療法が中心になります。「風邪」であれば風邪薬を服用して症状が治まれば元の日常生活に戻れますが認知症の場合、特に認知症全体の半分以上を占めるアルツハイマー型認知症は発症してしまうと今のところは進行を食い止めることが治療の中心となると言われています。

認知症って不治の病?

現代の医療技術をもってしても根本治療ができないいわば【不治の病】が認知症なんですね。ご存じの通り私たちが暮らす日本は世界的にみても類まれな超長寿国で2022年9月の高齢者人口は3627万人。人口に占める割合は29.1%です。認知症の最大要因は加齢であると言われていますので高齢化の進展に伴って認知症への対策は待ったなしになっています。

このような社会状況の中、「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、認知症施策を総合的かつ計画的に推進」すること。そして「認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支えあいながら共生する活力ある社会(=共生社会)の実現を推進することを目的とする認知症基本法が制定されました。今後、国や地方公共団体が、様々な認知症への対応をする上での【基本】となる法律が成立したことになります。

認知症基本法の基本理念

認知症基本法は基本理念として7項目規定していますが、その中に「全ての認知症の人が、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができる」という項目があります。さらに「認知症の人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるものを除去することにより、全ての認知症の人が、社会の対等な構成員として、地域において安全にかつ安心して自立した日常生活を営むことができるとともに、自己に直接関係する事項に関して意見を表明する機会及び社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じてその個性と能力を十分に発揮することができる」と規定されています。

認知症になるとできなくなることがある

ご存じの方も多いと思いますが一般的には認知症になると預貯金の引出しなどができなくなってしまうことがあります。この状態になることを「口座凍結」といいます。こうなってしまってから例えば介護費用や病院への支払いに本人の預貯金を使いたい場合は、お金を払って成年後見制度を利用することで必要な分だけは引出すことができるようになります。2021年2月に全国銀行協会から「高齢者との金融取引、親族との代理等に関する考え方」が発表されました。あくまでも銀行協会が発表した「指針」ですので全国の銀行が一律にルールを変更したわけではないのですが、何が何でも認知症患者の口座は凍結するということではなくなったので、ある程度柔軟な対応はしてもらえるようになってきてはいるようです。また、不動産の売却もできなくなります。最近はテレビドラマや映画などもコンプライアンスが厳しくなって、あまり見かけなくなりましたが、昔は放蕩息子が家の権利書を持ち出して…なんて話もありました。基本的には今の法律の下ではそういったことは一応できないことになってはいるんですね。

お金を工面するためにお金がかかる?

遊ぶ金を工面するために自宅を処分するなんてことは普通はやりません。でも親の介護費用等を工面するために不動産を売却する以外に方法がないというケースもたくさんあります。そういった場合にもお金を払って成年後見制度を利用することで不動産売却が可能になります。成年後見制度を利用するのに「お金を払って」と書きましたが成年後見制度を利用するためにはお金がかかります。成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」があります。今回は詳細は割愛しますがざっくり申し上げると、認知症等を発症した後で手続きするのが「法定後見」、意思決定能力がはっきりしているうちに後見人を決めておくのが「任意後見」です。どちらのケースでも必要になったら後見制度を使うことの許可を家庭裁判所にもらわないとなりません。ケースバイケースですが許可がもらえるまで1~2か月待つ必要があります。費用面では「法定後見」で通常は数千円、場合によっては別途鑑定料として10万円程度の費用が掛かります。その後は裁判所が選んでくれた「後見人」に、任意後見の場合は「任意後見監督人」に毎月報酬を支払い続けることになります。

病院や施設の費用を自宅を売却しなければ工面できないご家庭が、その売却のためにお金をかけて成年後見制度を使うって何となく釈然としませんよね。成年後見制度は介護保険制度が始まった2000年にスタートした制度ですが、手続き面や費用的な問題から広く普及しているとは言えない制度です。令和4年から令和8年にかけて「成年後見制度等の見直しに向けた検討」が行われることになっていて利便性の高い制度に生まれ変わる可能性はありますが、今のところ一度「成年後見制度」を利用すると、ご本人が亡くなるまでやめられない、後見人の途中交代が難しい、親族が後見人につくことが難しいといった課題が厚生労働省の専門家会議などでも指摘されています。

家族信託という選択肢

認知症を発症してしまった後の財産管理の方法としては成年後見制度のほかに「家族信託」の活用という選択肢もあります。意思決定能力があるうちに認知症等による意思決定能力の喪失に備えて、信頼できるご家族等に財産管理を任せるという意味ではちょっと「任意後見」に似ていますが、ご家族の事情に合わせた設計ができ、家族で家族の財産を管理することができるという点で「家族信託」はご家族の考え方や、ご家族の流儀にあわせた内容にすることが可能になります。また社会状況の変化に対応した、より積極的な財産管理ができるなどの違いもあります。「時間」という財産を最後まで自分のために様ざまなメディア等で「終活」という言葉を毎日のように目にします。少しずつ持ち物を減らしていったり、遺影を撮影したり、遺言書を作成したり、IDやパスワードといった各種デジタルの対策をしたり、いわゆるエンディングノートを書いたり。でも日本に暮らす私たちはあくまで平均の話ですが世界的にみると結構長い「時間」という財産を持っています。残念ながら高齢者の5人に一人は認知症によって、その最後の「時間」という財産を自分が思ったように使うことができません。認知症以外の事情も含めればもっと多くの方が最後までその財産を自分の意志で使い続けることができなくなってしまいます。認知症基本法が成立したというニュースを見て内容を読んで感じたこと、思ったことを書かせていただきました。

せっかく持っている「時間」という財産を思い描いた通りに最後まで自分のために使うにはどうすればよいのかを一緒に考えて、決めて、実行し続けるお手伝いをさせていただきます。