ブログblog

2023.04.26

社長の債務保証は

債務保証も相続財産となる

会社経営をしていくと、会社(法人)として金融機関などから運転資金や設備投資資金などの借入を行うことがあります。その借入をするときに多くの場合、社長は個人として、その借入金に対して連帯保証を行っております。連帯保証とは連帯保証人である社長が死亡しても、連帯保証債務は無くならず、法定相続分通り当然に分割されます。つまり社長の死後も相続人の方は、社長の代わりに金融機関から返済を求められるということになります。しかも連帯保証人には「催告・検索の抗弁権」および「分割の利益」がありません(民法454条、456条)。

「催告の抗弁権」がありませんとは

「催告の抗弁権」とは、債権者が、主たる債務者に請求をせずに、いきなり保証人に対して請求をしてきたときに、債権者に対して、「まず主たる債務者に対して、返済を請求せよ」ということができる権利のことです。ようするに貸し手の金融機関などに、まずは、借りた本人から返済してもらって下さいという事ができないという事になります。つまり会社(法人)が借りた本人だとすると会社に請求してくださいと言えないということになります。

「検索の抗弁権」がありませんとは

「検索の抗弁権」とは、債権者が、主たる債務者に対して返済の督促をした後で、保証人に返済を請求してきた場合でも、主たる債務者に弁済の資力があること及び主たる債務者の財産に対する執行が容易であることを証明して、債権者に「先に主たる債務者の財産に執行せよ」ということができる権利のことです。ようするに貸し手の金融機関などが、借り手が会社(法人)だとした場合に、会社に返済の督促をした後で、保証人へ返済を求めてきた場合でも、まずは、会社のあの財産を先に返済させなさいということが言えないということになります。

「分別の利益」がありませんとは

「分別の利益」とは、保証人が複数いる場合、各保証人の保証債務分担額は、その保証人の人数割で算出された金額になるということです。ということは、「分別の利益」がありませんとは、保証人が複数いる場合でも、貸し手の金融機関は、その中の一人に対して全額を請求することができるということになります。

債務保証がある場合の事業承継は

会社としての借入(債務)があるのは珍しいことではありませんが、これから事業を引き継いでいこうと考える後継者にとっては、社長の債務保証を一緒に引き継ぐというのは、大きなリスクでもあり精神的な負担もあるのではないかと思われます。保証債務がある場合の事業承継はどのような準備が必要なのかを考えたいと思います。その借入の目的がどういった目的で行われているのかを確認します。例えば運転資金、設備投資資金などのためというようなことです。つぎに会社の経営状態に対して債務の目的と債務額は適正であるかを確認します。債務額が大きく債務超過状態のような場合は、その債務超過そのものを解消していくことが必要となるからです。借入の目的に対して借入額が適正である場合はその返済額と返済年数を確認します。借入の目的について繰り返し借り入れが必要なものか一時的なものなのかも重要なチェックポイントです。

債務保証の引継ぎは

会社としての借入の目的に対して、借入額が適正である場合は、多くの場合その債務保証も引き継がれることになります。その場合、後継者のかたが金融機関から連帯保証を求められることがあります。後継者のかたは、株式の移転などで経営権を移転させるとともに、債務保証も引き継ぐことになります。その債務保証に対しては、なにもしなくてよいのでしょうか。会社の経営は世界の経済情勢や、日本の経済情勢または、社長ご自身の体調変化など、なにがおきるのかわかりません。債務保証に対しても適切な対策が必要となるのです。

債務保証に対する対策

一口に債務保証対策と言っても、これをやれば万全などというものがあるわけではありません。世の中何が起きるかわからないのであれば、こんな事がおきたらというようは、シュミレーションしてみるのがよいでしょう。例えば、経済情勢の変化で売り上げが落ち込んでしまった場合や、取引先の倒産などにより売掛金の回収に影響がでてしまった場合、社長の体調に大きな変化が起きてしまい会社経営に重大な影響がでてしまった場合とかを想定してみて、それに対する対策の方法や考え方を整理しておくのが望ましいでしょう。

債務保証対策にはどんな方法がある

債務保証対策にはどんな方法があるのでしょう。対策はどのような出来事に対して行うのかで方法もまちまちになると思いますが、まずは、経営方針、事業計画などで明確にしてみるとよいでしょう。キャッシュフロー経営について考えてみるのもよいと思います。それと、リスクの分散などで経営状況を安定させることや、リスクを転嫁させること、具体的には取引先の与信や社長の体調などにたいしては、保険会社のサービスや保険商品を検討してみることもよいでしょう。

債務保証対策を行わなかった場合はどうなる

先に述べましたように、債務保証は相続財産です。よくいわれる負の財産(マイナスの財産)の部分です。しかも連帯保証人は「催告・検索の抗弁権」「分割の利益」がありません。したがって、万が一の相続の時に債務保証が大きく金融機関から返済を求められた場合などは、遺された相続人(ご家族)などは、その額によっては相続の放棄を選択せざるを得なくなるなど、自宅や社長の個人資産を失うことにもなりかねません。しかも、その後の家族関係にも重大な影響がおきる可能性も否定できません。後継者の方は先代の社長の想いを引き継がれて、会社の承継をされることと思います。したがって債務保証にたいする対策は、大変重要な事業承継対策の一つなのです。

相続で会社を引継ぐ場合は

事業承継は、事前に準備を行い先代社長の生前に承継をすすめるという方法や、相続発生時に承継するということがあります。その場合も生前承継と同じように、連帯保証債務は相続財産となり相続されることになります。注意したいのは、相続発生時に承継する場合は事前に連帯保証債務がどこに、いくら、などとハッキリさせておくことが重要だと思います。相続発生時に事業承継をされる場合は、相続人の争いのもとにならないように、事前に家族会議などで相続人全員の同意を得て、自社株式と連帯保証債務を含む財産総額と分配の比率や分配するものを決定し、その上で自社の後継者を決定し、後継者の同意のもと相続人全員の理解を得て後継者を指名し、その事実を遺言書により確定させることです。

後継者に喜ばれる事業承継とは

借金も相続となりますので、最終的には借金も相続のときまで追いかけてきます。では後継者にとってはどのような事業承継が望ましいのかを考えてみます。一番望ましいのは言うまでもなく、借金のない事業承継です。しかし、現在の中小企業経営においては借金のない会社の方が稀です。では、どうすればよいのでしょうか、それは、借入金対策をしっかりと取っておくこと、または、対策の方法がしっかりと計画されていることです。借入金があったとしても、その借入金は生きたお金である事が重要なのです。新規事業に参入する場合、従業員を採用する場合、機械設備を最新のものに変える場合など、すべてのことにお金はかかります。そのお金は会社を成長させるために必要不可欠なお金でもあります。その生きたお金に対する借入金対策をしっかりと取っておかれる会社の事業承継こそが、後継者に喜ばれる事業承継ではないでしょうか。