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2023.04.17

民法(相続法)改正で事業承継への影響が

40年ぶりの民法(相続法)の改正

2018年の7月になんと40年ぶりに民法(相続法)が改正されました、現在順次施行されて2020年7月10日に完了してます。そこで今回は、その相続法の改正がこれからの事業承継にどのような影響が考えられるのでしょうか。今回の改正での一番の目玉は、配偶者に対する居住の保護があります。以前は居住用不動産も遺産分割の対象として法定相続人の間で分割の対象でありましたので、配偶者の住まいが確保できなくなってしまうなど、配偶者の居住の権利は確保されていませんでした。今回改正では、その配偶者の居住権(長期居住権)を創設して配偶者を保護しようという改正が行われました。また遺産分割等に関する見直しが行われ、これまでは相続人の間の公平のため、遺産分割においていったん遺産に持ち戻してそれぞれの相続人の取り分を計算するのが原則でした。(特別受益の持ち戻し)そのことにより、居住用の不動産も持ち戻しの対象となり他の現預金などと合計した遺産を分割するため、配偶者の現預金などの取り分が少なくなってしまうという事がおきていました。

改正法で配偶者が保護された

特別受益の持ち戻しが見直され、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産(配偶者居住権を含む)が、遺贈、贈与された場合に限り、遺産分割においてこの持ち戻しの意思表示を「推定」し、原則として遺産に持ち戻す必要はないものとするとされた、つまり配偶者への居住用の不動産に限って、今までの民法での原則と例外を逆転させ、「原則として遺産分割の対象に含めない」扱いとなりました。これにより、配偶者は遺産分割の際に今までより現預金などを多く受け取ることが出来るようになりました。

事業承継に関する遺言

遺言の方式といえば、自筆遺言、公正証書遺言がありこれまでは出来るだけ公正証書で作成しておいた方が良いですよと、アドバイスを受けられた方も多いのではないでしょうか。遺言制度についても改正が行われ、特に自筆遺言の方式が緩和され同時に自筆証書遺言の保管制度が創設されました。今までは自分で保管したりするために紛失や偽造などの恐れがあり存在や有効性をめぐってトラブルに発展するというデメリットがありましたが、この改正により自筆証書遺言(原本)を法務局に保管することができる制度が創設されました。これにより、自筆証書遺言での遺言が今までよりも使い勝手が良くなったと言えます。事業承継を考える場合には自社株式という社長個人の財産も含まれます。社長が保有されている自社株式を相続で後継者に移転される場合などは、遺言の作成は必須です。自筆証書遺言の方式緩和は、これから事業承継の計画を立てられる場合にどう変わったのかを理解していただき、円満な事業承継と相続対策に役立てていただきたいと思います。

遺産分割と事業承継の関係

自筆証書遺言を作成する場合にも考えなければならないことですが、各相続人に対してどのように分割をして、誰に何を継がせるのかを考えることが必要です。前述のとおり自社の株式も相続財産の一部です。しかも会社の経営権を有する株式であり分割を考えるときに細心の注意を必要とします。まずは、自社の株式の評価額はいくらになるのか、他の相続財産と合計したら遺産総額はいくらになるのか、その財産を公平に分けることができるのかなどを検証してみることが必要です。そのうえで相続の時に継がせるのか他の継承方法を考えるのかということになります。そのためにまずは現状を把握するために自社株の評価を試算してみる、社長個人所有の不動産の評価を試算してみるなどめったに評価額を試算していない財産から所有財産額を把握するとこから始められることが重要です。

遺留分と事業承継の関係

今回の改正では、遺留分に対する改正も行われており、事業承継や相続の対策を考える場合は注意が必要となりました。遺留分とは被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に限って、最低限の財産の取り分を認める制度です。これまでは遺留分権利者が贈与等を受けたものに対して遺留分を求める請求(遺留分の減殺請求)をすると、遺留分を侵害している贈与などは、その侵害額の限度で効力を失い、原則としてその減殺された財産はその限度で遺留分権利者のものとなる。つまり贈与された財産そのものを返還する(現物返還)が原則で、金銭での支払い(価格弁償)は例外という位置づけになっていました。それが今回の改正で、この取り扱いを抜本的に見直し「遺留分権利者は遺留分侵害額に相当する金銭の支払いのみを請求出来ることとされた(遺留分侵害額請求)」、金銭請求に一本化されたことで不動産などの複雑な共有関係が生じなくなるため、遺留分に基づく権利が主張しやすくなり、権利の処理も簡単になることが期待できるが、一方では遺留分相当額の現金を用意することが必要となり、用意できない場合には、一定期間の猶予をしてもらうよう、裁判所に請求できるとされていますが、あくまでも猶予であるという事に注意が必要です。遺言の作成のときなどはそのことにも注意しながら作成していくことが重要となります。

事業承継と相続の関係

事業承継のお話をしていると、事業の承継と相続は別物だというお考えのかたによくお目にかかります。会社と個人ということでは別々のことともいえますが、社長個人というカテゴリーで考えた時には同じものと言えるのではないのでしょうか。前述しましたとおり、社長個人が保有されている自社株式は相続財産の一部です。しかも創業時に1000万円で企業された会社の株式評価が現在は2億円などという会社も珍しくありません。しかし、そのことに気づかれていない社長がたくさんいらっしゃるのも現実です。中小企業の自社株式は上場しない限り現金化することが難しいだけでなく、会社経営上とても大切な経営権の問題にもなります。社歴の長い会社の中には現在でも名義株主が多数存在している会社もあります。これを放置すると、その保有株式が相続財産となり、その名義株主の相続人に相続されものすごい数の株主が存在するといった将来のトラブルの火種になることも考えられます。

事業承継と相続の対策で優先順位

事業承継と相続の対策を行うにあたっては優先順位を決めて順番に実行していくことが必要です、最初に考える大きなテーマとしては、事業承継完了の姿、経営者としての資質を備えた後継者候補の選定、(親族内なのか親族外なのかも含む)、承継計画の策定、承継計画を確実に推進するための進捗管理の方法の決定、株主構成の整理と把握、自社株式の評価、自社保有不動産の評価、社長個人所有の不動産などの財産評価、相続人にたいして相続財産の分割の決定、遺留分が発生する分割を行う場合は遺留分相当額の資金準備、納税が必要となる場合には納税額の資金準備、節税対策を行うことが可能かを検証する。などがテーマとして順番に考えて決断されることが大切です。

事業承継と相続対策のあとで最も重要な事 ここまで、民法(相続法)の改正で、事業承継にどんな影響があるのか、相続との関係はどうなのかという事を書いてまいりましたが、事業承継と相続対策が終わったら社長の人生が終わるわけではありません。人生100年時代といわれている現在、その後の人生はまだ長いのです。いろいろな社長にお会いいたしますが、よく言われますのが、「まだ辞めたくない」ということです。言葉の上では、まだ頼りないから心配だとかもう少し様子を見てからとお話されますが、実際に決断された社長は「辞めた後に何をすればよいのかがわからないから、実は辞めたくなかった」とお話される方が多くおられます。対策完了後に最も重要なことは、社長ご自身のセカンドステージ(セカンドライフプラン)をしっかりと考えご自分の人生を謳歌し楽しむことです。もし必要であればそのお手伝いをさせていただきます。

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